与党の改憲手続法強行にメディアも批判
― 朝日新聞社説 ―
改憲をしやすくする方向でまとめられた改憲手続法が、国民に内容を知らされず、多くの疑問点が指摘される中、自公与党の多数で2007年4月13日衆議院本会議を通過し、参議院に送られました。メディアも慎重論の立場から参議院での「廃案」を求めています。「朝日新聞」4月14日社説を引用します。
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【社説】(朝日新聞 2007年4月14日)
国民投票法案―廃案にして出直せ
憲法を改正すべきかどうかを問う国民投票法案が、与党の自民、公明両党の賛成多数で衆院で可決された。憲法という国の大本を定める議論が、対決路線の中で打ち切られたのは不幸なことだ。
長年にわたる護憲と改憲の原理的対立を経て、国会は具体的な論点にそって憲法論議ができる土台作りを進めてきた。
そして一昨年来、改正論議に入る前段階として、自民・民主・公明の3党が主導して、憲法改正の是非を問う手続きである国民投票法の仕組みを審議してきた。法案に反対の立場の共産、社民両党も、審議には加わってきた。
憲法改正の仕組みを決める今回の法案づくりは、できるだけ幅広い政党のコンセンサスをつくって進めるべきだ、と私たちは主張してきた。
憲法改正には、衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が発議する必要がある。さらに国民投票で過半数の賛成が得られなければ、憲法は変えられない。高いハードルを設定したのは、憲法とは国のかたちにかかわる基本法であり、改正すれば、その後数十年にわたり国の政治を大きく規定するからだ。
こんどの国民投票法は、そうした憲法論議に深くかかわる重要な法案である。憲法改正と同様に幅広い合意があってしかるべきだ。ある特定の時点での多数派の思惑や、単なる選挙目当てで進めてもらっては困る。少なくとも野党第1党の賛成を得ることがのぞましかった。
2000年に国会に憲法調査会が設置されて以来、自民、公明、民主3党の議論は、政局をからめないように注意しつつ、公正中立なルールづくりをする路線を大切にしてきた。だが、7年の協調がこれで崩れてしまった。
その責任はまず、選挙の思惑を持ち込んだ安倍首相にある。「憲法改正を参院選でも訴えたい」と争点化したからだ。戦後レジームからの脱却を図る安倍カラーを発揮する作戦だろう。一方、民主党側も、与党だけの可決という展開によって、参院選での攻撃材料を得た。
ここで採決に踏み切った与党側にすれば、もう十分審議は尽くしたし、譲るべきものは譲ったということなのだろう。
しかし、今回の可決は野党を硬化させ、実際の憲法改正の可能性はむしろ遠のいたとさえ言われているのは、皮肉なことである。
法案には、メディア規制の問題、公務員の政治的行為の制限、最低投票率の設定など、審議を深めてほしい点がある。
参院では夏に半数の議員が改選されるので、法案を継続審議にはできない。成立か廃案しかない。
世論を見渡すと、憲法についてどうしても改正すべきだと多くの人が考えている論点は、いまのところない。
時間は十分にあるのだ。参院は法案を廃案にしたうえで、参院選のあとの静かな環境のなかで、与野党の合意を得られるよう仕切り直すべきである。
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(2007年4月14日入力)
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