国民投票法、論点残した与党の強行を批判
― 朝日新聞社説 ―
改憲国民投票法案が参議院特別委員会で与党の多数で可決され、5月14日の参院本会議で成立の見通しとなりました。
「朝日新聞」社説は先に、最低投票率の規定が無いなどの問題を挙げて「参議院で廃案に」と主張していましたが、この事態に「選挙などへの思惑から短兵急に決着させるのは間違いだ」「今回の見切り発車で野党は硬化し、今後の憲法論議は進みにくくなるだろう」と批判しました。
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【朝日新聞・社説・2007年5月12日】
国民投票法案―60年後の不幸な出発
憲法改正の是非を問う国民投票の仕組みを定める法案が、参院の特別委員会で可決された。週明けには本会議で採決され、成立する見通しだ。
あれよあれよという間に、憲法改正の手続き法ができてしまう。そんな感想を持つ人が少なくないのではないか。いずれ作らねばならない法律だとはいえ、中身や問題点について十分に周知されたとはいいがたい。
実は60年前に、国民投票がもっと現実味をもって語られたことがある。
憲法が施行される直前の1947年3月30日、「新憲法を再検討 国民投票の実施も考慮」という見出しの記事が、朝日新聞1面トップに掲載された。
新憲法は、本当に日本国民の自由な意思に基づくものなのか。それを確かめるために、2年以内に修正の必要性を検討し、必要なら国民投票を行って修正しても構わない。連合国がそう日本に指示した。そんな内容だ。
官民でさまざまな検討があったが、2年後、当時の吉田茂首相は国会で「改正の意思はない」と表明し、国民投票の可能性は消えた。その後、憲法はそのまま定着していく。
憲法に関して、主権者である国民の意思を問う。それが国民投票の趣旨だ。もし憲法を改正するというなら、その改正に正統性を与えるための重要な手続きである。改憲そのものと同じように、投票のルールもできるだけ幅広い合意によるものでなければならない。
しかし、きのうの参院特別委員会の採決は、衆院と同様に自民、公明の与党が数の力で野党を押し切る不幸な展開となった。
その第1の責任は安倍首相にある。7月の参院選で憲法改正を訴えると意欲をみなぎらせたために、投票法をめぐる議論を「政治化」させてしまったからだ。
本来このルールづくりは、改憲そのものへの態度と関連させてはならないことだった。どうやって民意を正確につかむかが主たる論点であるべきなのに、首相が政権戦略に改憲を位置づければ野党が身を硬くするのは当然だ。
首相にしてみれば、60年間手がつかなかった投票法をつくるだけでも、参院選で安倍カラーを売り込む大きな材料になるという計算があるのだろう。
民主党にも、首相のそうした姿勢を逆に参院選での攻撃材料にしたいという思惑が働く。
衆院でこの法案が可決された時、私たちは参院で廃案にすべきだと主張した。憲法にかかわる重要な法案なのに、最低投票率制の問題をはじめ、さまざまな論点が生煮えのまま残っている。選挙などへの思惑から短兵急に決着させるのは間違いだ。
今回の見切り発車で野党は硬化し、今後の憲法論議は進みにくくなるだろう。60年たって成立する投票法が、むしろ改憲を遠のかせる。皮肉というほかない。
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(2007年5月13日入力)
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