ティルマン・アルフレッド・ラフ氏の平和講演会が開かれる

 2010年9月23日(木・祝)和歌山市プラザホープ多目的室で平和講演会が開かれ、ティルマン・アルフレッド・ラフ氏(メルボルン大学準教授、国際核兵器廃絶キャンペーン=ICAN代表)が「『核兵器のない世界』は実現可能」と題して講演され、共催の核戦争防止和歌山県医師の会・和歌山県保険医協会の関係者や一般参加者が聞きました。


 はじめに、司会の松井医師がラフ氏を「3年前にも来和されたが、医師の立場から核兵器廃止のキャンペーンに代表としてとりくんでおられる。3年前と比べ核兵器廃絶の希望が大きくなる中でお迎えした」と紹介しました。



 続いてラフ氏がパワーポイントを使いながら英語で概略次のように講演され、逐次通訳がありました。


 3年前に比べ核兵器廃絶の希望が大きくなったが、言葉だけの段階であり、廃絶への力を大きくしなければならない。今年1月に核終末時計が6分から7分にもどっただけだ。

(1)ICAN(国際核廃絶キャンペーン)の現在
 ・地雷禁止条約のような成功例に着想を得て核廃絶条約をめざしているが、NPT再検討会議やサミットでも合意に至らず危機感を持っている。
 ・ICANの考えは、@段階的縮小は失敗してきた、核廃絶の世界条約が必要だ、A市民が政府を動かして条約を実現する、ということ。
 ・ICANは組織ではなく、開かれた運動であり、各団体の課題を尊重しつつ、核廃絶と核廃絶世界条約実現という目標で共通している。

(2)この3年間の成果
 ・条約モデルを改訂して国連提出。潘基文(パンギムン)事務総長の支持を得た。
 ・運動のパートナーが広がった。豪州、英国、スウェーデン、フランスなど。豪州では、環境・女性・学生諸団体、教会、労組、政党など多様。
 ・いくつかの政党やリーダーに認められた。各国リーダーによって世界条約に至る一歩。

(3)核廃絶世界条約実現に向けて
 ・地雷廃止、クラスター弾廃止は、条約を求める運動と世論が各国リーダーを動かし、大国の反対を押し切って成立した。
 ・核廃絶は、保有国の既得権、軍需産業従事者の多さという困難があり、「米・露が捨てなければ廃絶できない」という意見もあるが、廃絶へのリーダーシップは非保有国から始まる。
 ・有力なステップとして、核兵器使用を人道的な立場から戦争犯罪とする、核兵器の管理を厳しくして生産をしない、などがある。

(4)優先課題
 ・各国政府に圧力をかけ、他の政府と協力して世界条約実現に動くようにさせる。
 ・なるべく上のレベルのリーダーの賛成を得る。政権交代があっても粘り強く。
 ・政権リーダーや官僚を呼んでスピーチさせたり議員アンケートなどで意識変化を図る。
 ・医療など種々のルートを通じて連帯を強める。たとえば、今年4月のカレンバーガー赤十字総裁のスピーチの核廃絶アピールは各国赤十字に影響を与えた。
 ・核使用が食糧生産に与える深刻な影響の研究結果も重要だ。
 ・医療用アイソトープの原料を高濃縮ウランから低濃縮ウランに切り替えるべきだ。
 ・Youtube(ユーチューブ)動画サイトを使って、核廃絶を訴える「長い連鎖メッセージ」を広げているので協力を。
 ・ICANのインターネットサイトに掲載されているさまざまな資料の活用を。



 講演を受けて質疑に入り、活発なやりとりがありました。

@国際司法裁判所96年勧告に関わってどのような取り組みがあるか。
(答)「保有国は善意を持って」という文言について、ICANの中の法律家グループが研究を続けている。また「他国に国が侵される危険のある場合」という核使用容認の含みを持った文言が入った事情・経緯がアルジェリ氏によって明らかにされた。

Aヒバクシャから何を学んだか。
(答)感動と力を与えられている。どの被爆者も恨みや報復を語らず「わたしだけで十分、これ以上被爆者を作らないで」と言われることに感銘を受ける。
 広島・長崎のヒバクシャの他にも、核実験場や鉱山のヒバクシャもいる。核実験ヒバクシャは癌患者が240万人と推定されるが、多くは名前が分からない。

B市民との結びつきはどう進めるか。
 具体的に話すのは難しいが、「地雷廃止、クラスター弾廃止の成功例を参考に、運動と世論で政権、国際組織などの力を出していく」「核兵器廃止という目標を明らかにする」ことを基本に。「核廃絶について市民の関心、知識が乏しいこともあるので、キャンペーンの中で変えて行く」ことが課題。

C医療用の高濃縮ウランは軍事転用するほどの量があるか。
 世界で年85Kgで、いくつかの核兵器を作れる。

以上。 (柏原卓・写真も)

(2010年9月23日入力)
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