愛媛新聞社説2011年11月19日(土)
憲法審査会始動 今、政治に語る資格はあるか
国会の憲法審査会が設置から4年以上の沈黙を経て動きだした。衆院が初の質疑を実施したのに続き、参院も月内に会合を開く。与野党を問わず国会議員の多くが憲法改正に前向きになったとみられるだけに予断を許さない。
今、最優先の政治課題が震災復興であることに疑いはない。こんな時節の改憲論議に国民の幅広い共感が得られないことを、当の議員たちは百も承知だろう。
17日に開かれた衆院審査会の質疑では、各党が憲法観や審査会運営について持論をたたかわせた。内容に新味こそなかったものの、与野党が日常的に憲法秩序と向き合うのは大いに結構だ。
しかし、党利党略が先立つ今の政治に憲法を語る資格はあるか。拙速、稚拙、粗雑な議論と手続きに走らぬよう、くぎを刺しておきたい。
質疑で政治家の本音を垣間見た。震災後に緊急事態対処への関心が高まり、野党側から出た意見の一つが「国家緊急権」の創設だ。与党議員の一部も口にする論点だが、明らかな震災便乗である。憲法は国家権力を縛る最高法規なのに、なぜ国民を縛ることしか思いつかないのか。
震災対処の不手際と復興の遅れは政治の無能の帰結であって、憲法の欠陥ではない。基本的人権の制限を前提とする緊急権を論ずるならば、国民主権の最終保証である「抵抗権」の議論が伴わないと筋が通らない。
今国会での審査会開催を容認した民主党政権の動機も不純だ。ねじれ国会を自民党などの協力で乗り切るために、憲法論議再開の求めにやすやすと応じた。自主憲法制定を掲げ、審査会設置の根拠となる国民投票法の成立を強行した2007年当時の安倍晋三政権に、あれほど反発していたにもかかわらずである。
しかも国民投票法は多くの欠陥が是正されないままだ。付則が定める18歳投票権の付与は実現していない。投票結果が有効と判断される下限を設ける最低投票率制度の検討など懸案が残されている。民意がゆがめられる危険の芽は摘んでおくべきだ。
審査会は改憲ありきで突き進んではならない。国の制度と運用に違憲の疑いがないかを検証し、是正する役目を国会は負うはずだ。現実の憲法課題を克服しなければ、目指す国のかたちや国民生活のあるべき姿は見えてこない。
たとえば、生存権は震災と原発事故の被災者、格差に苦しむ人たちに保障されているか。高裁判決とはいえ違憲が指摘されたイラクへの自衛隊派遣をどう総括するか。
憲法上の手当てを待たずとも、立法政策で解決できる課題はいくらでもある。政治家は自らが置かれた立場をまず直視しなければならない。
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