北海道新聞社説2011年12月28日
武器輸出三原則緩和は許されぬ
半世紀近く守ってきた平和国家としての「国是」ともいえる政策を、国会論議もなく見直すことに危惧を覚える。
政府はきのうの安全保障会議で武器と関連技術の輸出を禁じる武器輸出三原則の緩和を決めた。
欧米諸国など友好国との共同開発・生産と人道目的での装備品供与を解禁する。
共産圏や紛争当事国などへの禁輸は続けるとするが、日本が生産した武器がこうした国々やテロ組織に渡らない保証はない。
防衛産業に配慮するあまり、国民への説明もなく歯止めを外すことは許されない。政府は三原則緩和を撤回すべきだ。
武器輸出三原則は1967年に佐藤栄作首相が《1》共産圏《2》国連決議で禁止した国《3》国際紛争の当事国―への輸出は認めないと表明した。76年には三木武夫内閣がそれ以外への輸出も慎む政府統一見解を示した。
これ以降自民党政権は米国への武器技術供与、ミサイル防衛(MD)関連の共同開発・生産などを個別に例外として認めた。
今回の緩和はこうした個別判断をやめ友好国との開発や人道目的ならばいいと包括的に歯止めを外した。乱暴な判断だと言わざるをえない。
三原則緩和が加速したのは政権交代後だ。民主党は昨年暮れ、厳格な輸出制限をしている国との共同開発を認めるよう提言した。新防衛計画大綱での見直しも目指していた。
戦闘機など装備品の高性能・高価格化に対応するにはライセンスを買わずに済む共同開発への参画が必要だ、という防衛産業や防衛省などの論理に乗ったものだ。
今後は一つ一つの例外について国会などの論議を経て判断する手順を踏まず、新基準の枠内だとして防衛省レベルで共同開発などを認める可能性もある。
民主党が掲げてきた政治主導の看板倒れも甚だしい。
政府は今月、航空自衛隊の次期主力戦闘機(FX)に9カ国が共同開発したF35の導入を決めた。今後はこうした開発に日本も参加を目指すことになる。
だが友好国といっても国際関係は多様だ。中東の紛争国と友好関係にある欧米の国もある。そこに日本の開発した武器が行く恐れを否定できない。
政府は三原則緩和を関係省庁による数回の会合だけで決めた。
憲法で武力の放棄をうたい、必要最小限の自衛力も専守防衛に徹するために持つ。こうした平和外交の理念を非核三原則とともに具体的に示してきた武器輸出禁止原則を、なし崩しに緩めることは容認できない。
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東京新聞社説2011年12月27日
武器輸出三原則 歯止めなき緩和許すな
政府は武器と関連技術の輸出を禁止している「武器輸出三原則」の緩和を二十七日、官房長官談話の形で発表する。野田内閣は国会論議もないまま、「平和国家」の看板を下ろそうというのか。
三原則見直しが本格化したのは政権交代後である。自民党政権では官房長官談話で巡視艇供与を認めた例はあるが、民主党政権は三原則を歯止めなく緩め始めた。
菅内閣は今年六月、日米で共同開発を進めているミサイルの第三国への輸出を認める方針を米国に伝えた。二十七日の談話発表は、三原則緩和の第二弾にあたる。(1)米国や友好国との国際共同開発・生産への参加(2)自衛隊が国連平和維持活動(PKO)などの海外派遣で使用した装備品の人道目的などの供与─を可能にする。
ちょっと待ってほしい。武器を共同開発する相手国と日本の国益は必ずしも一致しない。米国なら日本との間で共同開発した武器を同盟国のイスラエルに売却するかもしれない。友好関係を保ってきたアラブ諸国から反目され、日本の中東外交が揺らぐことになる。
PKOでは、武器とみなされ、供与できない装備品の重機に代わって民生品の重機を持ち込み、供与する方式が定着している。東日本大震災では自衛隊の重機が不足し、レンタル品を使った。供与しても国内活動に支障のない装備品など本来、あるはずがない。
三原則緩和の背景に、民主党が支持基盤を防衛産業に広げる狙いがあるのだろう。北沢俊美前防衛相は二〇一〇年一月、日本防衛装備工業会の賀詞交歓会で、初めて三原則緩和に触れた。戦車、護衛艦、戦闘機の製造にかかわる企業は一千社を超えるが、装備品調達額は一〇年度、ピーク時の六割六千八百億円まで減った。そこで浮上したのが武器輸出である。
二十七日の官房長官談話は、一〇年七月に経団連が発表した「新しい武器輸出管理原則」と驚くほど似ている。三原則緩和の裏に、産業界の要求を丸のみする代わりに政権を支えてほしい、そんな思惑がうかがえる。
国内で売れない武器を海外で売ろうとするのは、国内で新規建設ができない原発を輸出しようとするのと同じで、はじめに産業界の救済策ありきではないのか。
日本が国際武器市場へ参入することになる三原則緩和は断じて認められない。抑制的な防衛政策を放棄するに等しい官房長官談話の発表は見送るべきだ。
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