北海道新聞社説
憲法審査会 いま急ぐ環境にはない(11月18日)
衆院の憲法審査会件が初めての質疑を行った。参院も月内に開く予定で、衆参ともに事実上始動する。
憲法論議を深めることは大事だが、なぜこの時期に改憲を前提にした審査会の開催を急ぐ必要があるのか疑問だ。国民の間でその機運が高まっているわけでもない。
国会が最優先で取り組まねばならないのは、大震災からの復旧・復興であり原発事故の収束であることを忘れてもらっては困る。
憲法審査会は2007年に成立した国民投票法に基づいて衆参両院に設置された。
ただ当時の与党だった自民、公明両党による採決が強引だったなどとして、民主、共産、社民の3党は委員の名簿を提出せず、休眠状態に陥っていた。
民主党が一転して名簿の提出に応じたのは、参院で野党が多数を握る「ねじれ国会」の下での法案審議に協力を得たいとの思惑があったためだろう。
こうした民主党の態度には危うさを感じざるを得ない。憲法という国のあり方にかかわる重要な問題を国会対策の材料に使ったのだとすれば、政権党としての基本的な姿勢が問われよう。
衆院の審査会は、中山太郎元衆院憲法調査会長を参考人として招き、国民投票法制定の経緯などの説明を受けた後、各党が改憲についての意見を表明した。
気になったのは自民党と国民新党が大震災のような「非常事態」に対処するための規定を盛り込むことに前向きの姿勢を示したことだ。
改憲派の一部からはこうした規定が憲法にないことが大震災からの復旧・復興の遅れにつながっているとの指摘がある。
だが、そんなことはない。
被災地での対応が進まないのは、憲法に問題があるのではなく、政治の意志、やる気の問題である。与野党が総力を結集して危機に対処すれば、現憲法の下でも十分に対応が可能だ。
大震災を理由に改憲を一気に推し進めようというのは、あまりに短絡的で理解は得られまい。
被災地では冬が近づき、防寒対策など新たな問題も発生している。
いま論じるべきは憲法が保障する「生存権」(25条)や「幸福追求権」(13条)の精神をいかに具体化し、被災地での支援に生かすかだ。
国会は大震災や原発事故への対応に加え、環太平洋連携協定(TPP)や社会保障と税の一体改革といった難しい課題を抱えている。とても改憲論議を急ぐ環境にはなく、その前にやるべきことが山積している。
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