憲法審査会「始動」させる時ではない

 東日本大震災・原発事故の対応で課題が山積する中、2011年5月18日参院本会議において参院憲法審査会規程を制定しました。
 19日の「北海道新聞」社説が多くの点から批判して反対したのに続き、23日の「西日本新聞」社説も反対を表明しました。以下に紹介します。


「西日本新聞」社説 2011年5月23日 10:45

憲法審査会「始動」させる時ではない

 参院は、憲法改正原案を審議する憲法審査会の運営手続きを定めた「規程」を制定した。
 先週の本会議で民主、自民、公明各党などの賛成多数で規程案を可決した。共産、社民両党は反対し、民主党の一部議員は棄権した。衆院は一昨年に審査会規程を制定している。
 参院の規程制定によって、憲法改正の是非を国民に問う手続きを定めた国民投票法の成立から4年を経て、形の上では憲法改正の国会発議に必要な制度がすべて整ったことになる。
 しかし現実には、憲法改正原案が提出されたとしても、審査会は動かせる状態にはない。衆参両院とも審査会の委員はまだ選任されていない。
 参院本会議で賛成討論に立った中曽根弘文元外相は「規程整備だけでは意味がない。国民に開かれた憲法論議を一刻も早く進めることが不可欠だ」と審査会の始動を促したが、いまは改憲を国会日程に乗せる政治環境にはない。
 政治に求められているのは、大震災と原発災害からの復興に向けて、政治の総力を結集することである。
 被災地では、なお約11万人が避難生活を余儀なくされている。国会でいま憲法を論じるとすれば、憲法が国民すべてに保障している「生存権」を被災地でどう確保するかという議論であり、そのための政策の速やかな実行である。
 そうした状況の下で、憲法審査会の規程を急いで制定する必要があったのだろうか。改憲草案を持つ自民党だけでなく非常時のいま政権を担っている民主党までが、賛成に回ったのは解せない。
 民主党は4年前の国民投票法案採決では、法案修正をめぐる与野党協議打ち切りを不満として反対した。一昨年の衆院憲法審査会の規程制定時にも、反対票を投じた経緯がある。
 今回の民主党の方針転換が、与党が少数となっている参院の法案審議で自民党など野党の協力を得るための政治的な駆け引きだとすれば、姑息(こそく)である。
 「憲法」を政権運営の道具にすべきではない、と言っているわけではない。平時ならば、民主党には政権党として憲法論議の主導権をとってもらいたい。
 しかし、憲法の改変が国の根幹に関わる政治の最重要課題であることを忘れたかのような今回の便宜的な対応には、政権政党としての資格と器量を疑う。
 今回の震災対応をめぐり、憲法の非常時対処に不備があるとして、自民党内には改憲論議を求める動きもある。
 非常時を想定外として憲法論議を封じるつもりはない。しかし、与野党合意もないまま制定された国民投票法に基づく憲法審査会を性急に始動させることに、私たちは危うさを感じる。
 最低投票率をどうするか。国民に問う賛否は条項か条文か。改憲論議より、国民投票法があいまいにしたままの欠陥から、まず議論し直すべきだろう。

=2011/05/23付 西日本新聞朝刊=

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(2011年5月23日入力)
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