西日本新聞社説 2012年3月4日

自民憲法改正案 いま変える必要あるのか

 自民党の憲法改正推進本部が憲法改正原案をまとめた。党内議論を経て4月下旬までに党の新憲法案を決定し、国会提出を目指すという。
 しかし、なぜこの時期に憲法改正案の国会提出を急がなければならないのか。理由が、いまひとつ明確でない。
 次期衆院選を前に「自民党らしさ」を打ち出して、憲法問題で腰が定まらない民主党との違いを鮮明にしておきたい、というのが一つの理由だろう。
 日本が主権を回復したサンフランシスコ平和条約発効から60年にあたる4月28日にまでに、党是である自主憲法制定の案を国会に提出したいという党内保守派の意向もありそうだ。
 だとすれば姑息(こそく)である。憲法は国民のものであり、改正の可否は国民投票に委ねられている。当然、その過程では十分かつ慎重な議論が求められる。
 一政党が自分たちの政治的思惑や政治信条の実現のために「利用」するような軽いテーマではないはずだ。
 未曽有の大災害から国と国民をどう立ち直らせるか。1年たったいまも政治の喫緊の課題として眼前に横たわる。
 そんな時期である。国会が国民の賛否が分かれる憲法改正の是非議論に多くの時間を費やすときではあるまい。
 被災地の復興はこれからが本番だ。深刻な原発災害対応は今後も続く。社会保障と税の一体改革、それに伴う消費税増税問題も今国会で道筋をつけたい。
 いずれも、国の姿と私たちの生き方に関わる政治の重要課題であり、憲法改正より緊急度も国民の関心も高い。
 もちろん、憲法改正が重要でないと言うつもりはない。「国のかたち」を方向づける最重要の政治テーマだと私たちも考えているが、いま政治日程に載せる必然性は見当たらない。
 そんな中で示された自民党の憲法改正原案である。7年前にまとめた党の「新憲法草案」を土台にしているが、保守色が一層鮮明になった。
 天皇を「元首」と位置付け、自衛隊を「自衛軍」とし「自衛権の発動を妨げるものではない」との表現で、集団的自衛権の行使にも道を開いている。
 現行憲法にない「国旗・国歌」の尊重規定や、有事や大災害を想定した「緊急事態」条項を新設し、国民が国の指示に従う新たな義務も盛り込んだ。
 このほか、外国人に参政権を認めない国籍条項を追加するなど、党内保守派の意向が強くにじんだ内容だ。衆参両院の3分の2以上の賛成が必要な改正発議要件も過半数に緩和した。
 憲法改正への自民党の決意と執念がにじむ原案だが、党内には慎重論や異論も強い。選挙協力する公明党も「保守回帰した原案」に不快感を示している。
 憲法改正が一党では困難なことは自民党も承知しているはずだ。改正発議を目指すなら、他党も同調できる改正案づくりへ、慎重な党内論議を求めたい。

=2012/03/04付 西日本新聞朝刊=

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(2012年3月11日入力)
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