信濃毎日新聞 社説 2月1日(金)

改憲要件 緩めるのは許されない

 安倍晋三首相が国会で、憲法96条にうたわれている憲法改正要件の緩和を目指す考えを明らかにした。
 「まずは多くの党派が主張している96条の改正に取り組む」。首相は代表質問に答えて述べている。
 最終的な狙いが9条の改正にあるのは明白だ。96条見直しには賛成できない。
 96条は2段階の改正手続きを定めている。(1)衆参両院の3分の2以上の賛成で国会が発議し、(2)国民投票で過半数の賛成があれば憲法は変えることができる。
 首相は(1)のハードルを引き下げたい考えだ。具体的には2分の1以上の賛成で発議できるようにすることを目指している。
 96条改正に賛成できない理由は第一に、首相が要件緩和を目指す狙いである。
 自民党は昨年決めた憲法草案に、9条を改正して自衛隊を国防軍に位置付けることを盛り込んでいる。「まずは96条」の後には、「次は9条」が控えている。平和国家の根っこが揺らぐ。
 第二は改憲手続きの緩和そのものがはらむ問題だ。
 近代憲法はふつう、改正に高いハードルを設けている。時の権力者が勝手に変えることがないように、との考えからだ。国民の権利がないがしろにされてきた歴史の反省を踏まえた規定である。
 権力者に対し国民の自由や権利を侵害しないよう命令するのが憲法だ。変えにくさは憲法の本質に根差している。安易に緩めるのは許されない。
 憲法を尊重、擁護する義務を負う人が99条に列挙されている。「国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」などである。
 この条文も権力者によって骨抜きにされないための規定と言える。首相が正面から改憲手続き緩和を主張することは、順守義務に照らしても問題を残す。過去、公式の場で首相が憲法改正に具体的に触れるのは異例という。
 野党のうち日本維新の会は自民党同様、改憲発議のハードルを2分の1に下げるよう主張している。みんなの党は総選挙の公約に議決要件緩和を掲げた。改憲論者は民主党議員の中にも多い。
 共同通信のアンケートでは、総選挙の当選者の7割以上が9条改正に賛成している。政治の流れ次第で96条見直しが一気に動きだしかねない状況がある。
 96条は単なる手続き規定ではない。憲法の本質にかかわる条項だ。議論の行方をよくよく注意して見守らねばならない。

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(2013年2月5日入力)
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