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09衆院選/聞こえるU C/和歌山の岐路
平和のため想像力を
政権にかかわらず9条堅持
弁護士、「九条の会・わかやま」呼びかけ人 月山桂さん(86)=和歌山市
平和を考える上で必要なのは、人の気持ちに思いをはせる想像力です。給油活動でインド洋などに派遣される自衛隊員やその家族はどんな思いだろうと、考える力が必要です。政治家だけでなく、国民1人1人ができることです。海賊対策で海上自衛隊をソマリア沖に派遣することについても同じですが、「世界有数の軍事力があるんだから、それくらいしなきゃ」と考える人が今は多いのか、為政者になびいているように見えます。経済大国、政治大国である必要はないのです。その点を選挙の前にもう一度考えてもらいたい。
軍隊でのきつい締め付けや、空襲の中を走って逃げた経験を持つ私たちの声は、若い世代に十分に届いていません。弁護士会の催しなどで戦争体験を講演する機会も多いですが、参加者の7割は60代以上の同世代。若い世代は自分たちの生活に追われているから顔が見えない。戦争の痛ましさだけでなく、国民全体が国と一体となってしまう危うさを我々は体感して知っている。世代の差を埋めるのは容易ではありません。
確かに経済不安が続き、毎日の飯の方が大事だとする風潮が強いです。しかし、唯一の被爆国である日本にとって、核廃絶は大きな課題です。米国のオバマ大統領はプラハで今年4月、「核兵器を使った唯一の国として、核兵器のない世界実現のために努力する道義的責任がある」と明言しました。果たして日本の政治家はそういう方向に向かっているのかと首をかしげたくなります。「国益のため」と為政者が言い始めたら注意が必要なのは、歴史を見れば明らかです。
米国でテロ攻撃があった01年9月以降、政府は憲法9条から真っ正面から向き合わず、「テロとの戦い」という大義名分で、「解釈」でなし崩し的に自衛隊の活動を広げています。そういった状況は危険です。政権が交代しても9条を守ってくれるのかは分かりません。法案を通すことだけに主眼を置いた政治になっています。政治家に求められているのは、国民が苦しんでいれば一緒に同じ場所を歩くことであり、生の感情を共有することではないのでしょうか。我々1人1人の生活に思いをはせてくれるかどうかにかかっていると思います。=おわり
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この企画は、山中尚登、最上聡、山下貴史、藤顕一郎が担当しました。
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■人物略歴
◇月山桂(つきやま・かつら)
1923年、和歌山市生まれ。中央大法学部卒業後、50年に東京地裁で裁判官として任官。松山地裁を経て、56年、和歌山弁護士会に登録。同会会長、日弁連常務理事などを歴任した。また学徒出陣に伴い、43年12月に入隊し、満州などで従軍した。05年9月、呼びかけ人となって「9条の会・わかやま」を結成し、弁護活動の傍ら、戦争体験や改憲反対について考えを述べる講演会活動を精力的に続けている。
(毎日新聞 09年8月18日)
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