愛媛新聞 2015年3月17日

与党安保協議 平和主義を貫く議論が必要だ

 自衛隊の海外派遣がなし崩し的に進み、武力行使に道が開かれる。そんな深刻な事態を強く危惧する。
 新たな安全保障法制の方向性について、自民、公明両党が与党協議会で合意する見通しになった。自衛隊の任務を大幅に拡大する政府案の基本路線は維持されたままだ。
 今こそ、平和主義の原点に立ち戻らねばならない。結論を急がず、国民に開かれた議論を深めてもらいたい。
 議論の出発点が、集団的自衛権行使を容認した昨年7月の閣議決定にあるのは言うまでもない。本欄では行使は平和国家の土台を揺るがし、国民を守るどころか危険にさらす暴挙だとして撤回を求めてきた。そもそも越えてはならない一線だったのに、明らかになった政府案は、さらに大きく踏み込んだとさえ映る。
 例えば、周辺事態法改正では「周辺」の地理的概念を撤廃した上で米国以外の外国軍も支援対象に含め、弾薬提供を解禁する。もともと朝鮮半島有事を念頭に置いた法律であり、政府は「中東やインド洋は想定されない」と答弁してきた。法律の根幹を覆す背景に、日豪などの同盟国に負担を分散させたい米国の戦略があるのは想像に難くない。
 一方、海外派遣を随時可能にする恒久法は国会事前承認が与党協議の焦点だ。「例外なく」承認を求める公明の主張を自民ははねつけ「原則」で骨抜きにする考え。さらに国連平和維持活動(PKO)協力法では、国連決議がなくても「国際法上の正当性」という曖昧な根拠で派遣できる改正案を示す。武器使用基準緩和にも前向きだ。いずれも容認できる内容ではない。
 自衛隊の活動範囲や派遣手続きなどの制約をできる限り取り払い、政権のフリーハンドを確保したい思惑がうかがえる。看過できない。派遣がなし崩しになれば、紛争に巻き込まれる危険が高まることを直視してもらいたい。
 過激派「イスラム国」による邦人人質事件など、日本を含め国際情勢は厳しさ、複雑さを増している。それでも、自衛隊の海外での武力行使に多くの国民は否定的だ。
 共同通信の先月の世論調査では「イスラム国」対策をめぐる日本の支援の在り方について6割近くが「非軍事分野に限定すべきだ」と答え、有志国連合による軍事作戦への自衛隊の関与は「直接参加」「後方支援」を合わせて2割に満たなかった。政府は民意を軽んじてはなるまい。
 日本は非戦国家として国際社会で存在感を示してきた。安保法制の政府案は積み重ねた平和外交の否定に等しい。日本がなすべきは、平和国家の主体性を見失わないことであり、混乱の渦中に進んで身を投じることではない。政府与党は肝に銘じてほしい。