愛媛新聞 2015年4月29日

日米防衛指針改定 国民無視の「一体化」危惧する

 自衛隊と米軍の「一体化」に向け、政府は国民を置き去りに猛進している。戦争につながりかねない道だ。憲法で守ってきた平和国家を自ら手放すことの危うさを、いまこそ踏みとどまって冷静に見つめ直さねばならない。
 日米両政府は外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を開き、日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定した。
 集団的自衛権行使を容認した昨夏の閣議決定を反映させ自衛隊が地球規模で対米支援できるようにした。日本が攻撃を受けていなくても「米国または第三国に対する武力攻撃に対処するため」協力することを明記。具体例として弾道ミサイルの迎撃を盛るなど武力行使を禁じた憲法との整合性に疑問が拭えない。
 米軍は厳しい国防予算の中で、肩代わりとなる自衛隊に大きな期待を寄せる。米軍内には将来的に指揮命令系統の一本化を目指す声もある。新指針がうたいあげた「切れ目のない」協力体制構築とは、米国の戦争に随時参戦することにほかなるまい。
 自衛隊員はもちろん、日本が敵国とみなされテロや攻撃の対象となる恐れが高まることは間違いない。国民を危険に陥れることは許されない。
 憲法の平和主義を根底から覆す大転換にもかかわらず、指針の前提となるべき安全保障法制の国会審議すらされていないことも大きな問題だ。また、集団的自衛権の行使容認を一内閣による憲法の解釈変更で強行したのと同様、今回も、日米安保条約の枠組みを国会了承を得ない指針変更によって実質的に変えた。
 国内での説明も議論も抜きに突き進む国民無視の政府の姿勢は到底容認できず、強く異議を唱えたい。今後、指針を既定路線として法整備を強行し、なし崩し的に自衛隊活動を拡大することは断じてあってはならない。国会での徹底的な論議を求めたい。
 安倍政権は中国への抑止力強化を狙う。指針には沖縄県尖閣諸島をめぐる有事の共同対処が盛られた。しかし、政府の思惑通りに進む保証もない。米国が経済分野を中心に相互依存関係を深める中国を過剰に刺激したくないことは明白だ。尖閣の帰属に関しても「特定の立場は取らない」との見解を変えていない。
 抑止力として軍事力を顕示し続けるため、日本は将来にわたりどれだけの経済的、人的負担をするのか。現実を直視しなければならない。
 米国や軍備に頼る前に必要なのは、対話による中国との関係改善だと、政府は肝に銘じなければならない。過去の大戦への真摯(しんし)な反省の下、外交努力や経済交流を地道に進めることこそ、憲法を守り抜き平和国家を掲げてきた日本の取るべき道だ。