茨城新聞 2015年3月23日

安保法制の与党合意 党略優先、核心見えず

 自民、公明両党は新たな安全保障法制に関する与党協議会で、集団的自衛権の行使容認などを踏まえ自衛隊の任務と活動範囲を拡大する法制の骨格を正式に合意した。だが自衛隊は戦時下のホルムズ海峡で機雷を除去できるのか、など核心は見えない。4月の統一地方選と安保法制論議が重ならないよう腐心する公明党と、政府の意向に配慮する自民党が党利党略を優先した結果だ。
 統一地方選後の法制化で歯止めを明確にしなければ、将来に禍根を残す。自衛隊の海外派遣に際限がなくなる法制化は避けなければならない。日本の行く末をどう考えるのか。安保政策の大転換だけに、慎重を期した議論が不可欠だ。
 政府は4月12日の統一地方選の前半戦後に法案化の協議に入って5月12日にも閣議決定、通常国会へ提出する。4月末に日米の外務、防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、米軍と自衛隊の役割分担を定めた日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定。安倍晋三首相が直後に訪米し、オバマ大統領と同盟の強化を確認する段取りを描く。
 骨格は集団的自衛権の行使を可能にする武力攻撃事態法・自衛隊法改正、国際紛争に対処する他国軍を後方支援する恒久法の制定、周辺事態法改正、国連平和維持活動(PKO)協力法改正、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」への対処を明記した。
 まず肝心の集団的自衛権の行使を容認する新たな要件の解釈が割れたままだ。要件の柱は「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」ケース。首相はホルムズ海峡で自衛隊の機雷除去が可能と主張するが、公明党は日本有事の寸前に限定されるとの見解を変えていない。
 骨格には公明党の要請で、自衛隊海外派遣に際し▽国際法上の正当性▽国会の関与など民主的統制▽自衛隊員の安全確保-を盛り込んだが、法制化してもホルムズ海峡への派遣の可否を明確にしそうもない。これでは時の政権の判断にゆだねることになる。
 朝鮮半島有事を想定して自衛隊の米軍後方支援を定めた周辺事態法を改正し、米軍以外の他国軍への支援も可能にする。周辺事態の定義は「そのまま放置すれば(中略)わが国の平和および安全に重要な影響を与える事態」で、地理的な制約が事実上あった。法制化では「周辺」の文言を削除する見通しだが、具体的にどんな事態を想定しているのか判然としない。
 公明党は恒久法に基づく自衛隊派遣を例外なく国会の事前承認とするよう求めていたが、骨格は「国会の事前承認を基本とする」と例外の余地を残している。
 公明党の支持母体である創価学会は、もともと自衛隊の海外派遣に慎重論が根強い。統一地方選直前に安保法制をめぐり自民党に押し切られた印象を与えれば、集票にマイナスに働きかねない。自民党は公明党に配慮しながらも、ここで大枠を合意し、後は法制化を待つだけにしたかった。通常国会での成立が困難になり、ガイドラインも改定できなくなるからだ。
 だが自公の思惑にかかわらず、安保法制に世論の理解が深まっているとは言い難い。法制化の過程では拙速を避け、丁寧な論議が求められる。