岩手日報 論説 2014年02月21日

首相の政権運営 独善強める傾向を憂う

 小渕内閣で官房長官、続く森内閣では自民党幹事長を務めた御意見番、野中広務氏が19日、参院の統治機構調査会に参考人として出席。安倍晋三首相の政権運営に「議会制民主主義が相当に危険な状態だ」との認識を示した。
 集団的自衛権の行使容認をめぐる憲法解釈に関し、国会で安倍首相が「私が責任を持っている」と答弁したことにも「非常に誤った道を歩みつつある。内閣は自分たちの行動に高揚している」などと、政権批判は痛烈だ。
 野中氏が、党の中では左派色が強いと言われる点を差し引いても、内閣が自らの行動に「高揚している」のは確かだろう。安倍首相の盟友とされる衛藤晟一首相補佐官が、動画サイトに投稿した国政報告で、首相の靖国神社参拝に失望を表明した米国の対応を批判したのは典型だ。
 昨年末の安倍首相の靖国参拝に、米側はいち早く失望感を表明。その影響が両国関係のしこりとなる現状で、内閣の中でも首相に最も近いとみられている人物が「むしろわれわれが失望だ」などと公言する政治的、外交的センスの無さは嘆かわしい。
 20日の衆院予算委で見解を問われた安倍首相は「参院議員衛藤晟一としての個人的見解と承知している」との認識を示した。この発言も、センスが疑われよう。
 衛藤氏は「われわれ」が失望だ−と表現。今年初めには自民党の萩生田光一総裁特別補佐が、首相の靖国参拝に対する米側の反応を「揚げ足取り」などと批判してもいる。受け取る側は、首相周辺の本音と解釈することだろう。
 その種の疑念は、言動を撤回して晴れるものでもあるまい。首相はもとより、国政に深く関わる立場にあっては、公私の別なく、その発言が内外に及ぼす影響に細心の注意があって当然だ。
 首相肝いりの籾井勝人NHK会長や同経営委員らから相次いだ不穏当な言動は、米大使館がキャロライン・ケネディ駐日大使へのNHKの取材に難色を示す事態を招いている。首相周辺から次々に噴き出す「個人的見解」は、政情によっては、その一つ一つが政権の足元をすくう大問題となってもおかしくない。
 そうならないのは「1強多弱」で内閣支持率は安定し、与党内の不満層が表立って政権運営に異を唱えられるムードにないからだろう。対抗勢力たり得ない野党の非力は言うまでもない。
 民主、日本維新、みんな、結いなど野党各党が、まずは内部固めを迫られる状況にあって、政権の内実も内向きの理屈が支配的な印象が強い。国内外の批判に耳を貸さず、独善を強める傾向は、まるで「いつか来た道」だ。