河北新報 社説 2014年02月15日

集団的自衛権行使/前のめりの姿勢を危ぶむ

 つんのめる勢いで結論を急ぐ性格の政策課題ではさらさらないし、その時期でもない。
 安倍晋三首相が国会答弁で「突出発言」を繰り返す、憲法解釈見直しによる集団的自衛権の行使容認問題である。
 東アジアをはじめ、取り巻く安全保障環境が変化しており、適切に対処すべきことは論をまたない。とはいえ、相応の備えが直ちに、集団的自衛権の行使容認に踏み出すことに結び付くものではない。
 朝鮮半島など周辺有事を想定した対応策の一つとの見方がある。日米同盟の強化につながり、中国の攻勢に対する抑止力を期待する向きもある。
 ただ、東アジアの安定よりは緊張を高める可能性が大きく、賢明な選択とは思えない。安倍首相の歴史認識や靖国神社参拝が中国、韓国などとの摩擦を強めている側面さえあり、いささかマッチポンプ的にも映る。
 集団的自衛権は密接な関係にある外国への武力攻撃を、自国への攻撃とみなし実力で阻止する国際法上の権利とされる。わが国は憲法9条により、政府解釈で行使を禁じてきた。
 同盟国、米国との連携を意味する行使容認は安倍首相の持論だが、国際的に定着している解釈を変えるとなれば、よくよく吟味しなければならない。
 連立政権を組む公明党の太田昭宏国土交通相は衆院予算委員会で「すべて首相が答えていることに同意している。違和感はない」と答弁。同時に、慎重な議論の必要性を示し、苦慮する党の立場を印象付けた。
 安倍首相は、個別事例ごとに行使の是非を判断する抑えた運用などを通じて、憲法9条の枠の中での「限定された行使」を強調。公明党の軟化を誘う。
 もっとも、範囲を狭く規定しても、活動がその枠にとどまる保証はない。有事は往々にして想定を超え、対応が無制限に広がりがちだ。解釈変更が突破口となり、海外派兵を禁じてきた9条のなし崩し的な有名無実化を招く恐れを排除できない。
 近隣諸国との新たな対立の要因になることは避けられまい。
 東アジア情勢を世界各国が懸念している。その払(ふっ)拭(しょく)への回答が集団的自衛権の行使容認では戦後、営々と築き上げてきた「平和国家・日本」を見る目も大きく変わってこよう。
 行使容認を憲法解釈の見直しで行う、その手法も、国際社会の理解を得にくい。憲法で権力を縛る立憲主義の原則が揺らぎ、民主主義国としての信頼感を弱めることにもなりかねない。
 選挙で勝てば何でもできると言わんばかりの首相発言には、自民党内からも批判が噴出。公明党も苦言を呈している。  必然性の認識、手法いずれも問題ありと言わざるを得ない。  傷ついた友好関係の再構築など、地域の平和・安定に向けて方策を尽くしているのか。個別的自衛権行使の円滑な運用へ、関連法の整備は万全か。
 安全保障政策の大転換に踏み込む前に、やるべきことはまだまだある。