河北新報 2015年3月19日
安保法制実質合意/一気呵成の進展危うさ募る
どうしても自衛隊が海外で活動する機会を広げたいということなのだろう。安全保障環境の変化を受けた措置だとしても、専守防衛を踏み越えかねない危うさが募る。
安全保障法制の骨格をめぐって、きのう実質合意した自民、公明の与党協議についての評価である。政府が目指す「切れ目のない安保法制」を「制約のない自衛隊派遣」に陥らせてはならない。
安保法制は主に、密接な関係にある同盟国などへの攻撃に共同で対処する集団的自衛権行使、武力行使に至らないグレーゾーン事態への対応、平和協力活動など国際貢献の3分野で検討を進めている。
焦点の集団的自衛権の行使に関し、武力行使の新3要件に該当する、直接攻撃されなくても日本の存立が脅かされる「存立危機事態」を武力攻撃事態法に盛り込む方針については、判断を先送りした。
今後、政治日程もにらみつつ、調整を進める。ただ、具体的な事態の明確化を図る文言を法律に落とし込むのは容易ではなく、拡大解釈の恐れは残ることになるだろう。
既存の事態法には個別的自衛権に関わる「武力攻撃予測事態」の規定もあり、混乱なく集団的自衛権発動の事態との仕分けができるか疑問だ。
与党協議はグレーゾーン事態や国際貢献の分野で自衛隊の活動を広げる枠組みづくりが先行する形で進んだ。
グレーゾーン事態では米軍に加え、他国の軍隊を守れるように自衛隊法を改正。国際貢献のうち米軍などを対象とする後方支援の拡充は周辺事態法改正と恒久法新設で対応し、平和維持や復興支援は国連平和維持活動(PKO)協力法の改正などで臨む方針。複雑な法体系は「派遣拡大優先」の証しのようにも映る。
集団的自衛権が発動されれば影響は甚大だが、そうした事態の頻発は考えにくい。むしろ、安倍晋三首相が掲げる積極的平和主義に基づく国際貢献としての自衛隊海外派遣の「日常化」が懸念される。
周辺事態法に「重要影響事態」を新設し、遠隔地の有事でも後方支援できるよう、周辺事態の削除を検討。地理的制約を解いてしまえば、派遣の歯止めを失うことになる。容認するわけにはいかない。
新たな恒久法と組み合わせれば、「いつでもどこへでも」派遣は可能となりかねない。個々の事案に応じた特別措置法は迅速な対応を難しくする半面、拙速な決定を避けることにつながった。その意義をかみしめてほしい。
武器使用を緩和し、弾薬の提供を容認することも検討されている。戦闘に巻き込まれる可能性を含め、ハードルを下げることで生じるリスクを軽んじるべきではない。
国際紛争に対処する他国軍の後方支援は、国連決議を前提とすることにした。当然だ。ただ、国会の事前承認を「基本とする」では派遣を制約する効果は乏しい。
周辺各国との強固な友好関係の確立と国際社会の安定・発展に向けて、わが国は平和憲法に沿いつつ、いかに対応すべきなのか。針路を左右する重要な選択である。あれもこれもと欲張って、一気呵成(かせい)に進める案件ではない。
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