神戸新聞 社説 2014年02月22日

憲法解釈の変更/国会の議論を封じるのか

 安倍晋三首相が、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈について、閣議決定で変更する考えを明らかにした。
 4月には有識者懇談会の報告書が出る。それを受けて与党で調整し、解釈変更案を固める。国会には閣議決定後、解釈変更に伴う自衛隊法などの改正案を提出するので、そこで議論すればいい−。20日の衆院予算委員会で、首相は解釈変更の流れをこう説明した。
 民主党の岡田克也元代表は、閣議決定前に国会で議論を尽くすよう迫ったが、首相は「今の段階で案を示すことはできない」と拒んだ。  解釈変更で集団的自衛権を認めれば、自衛隊が海外で武力を行使できるようになる。長年の国会論議を積み重ね、武力行使の歯止めとなってきた憲法9条は骨抜きになる。
 国のかたちを変える憲法の解釈変更にもかかわらず、一般的な行政手続きにすぎない閣議決定を先行させ、国会の議論を後回しにする手法は大いに問題だ。時の政府の意向で憲法解釈が変えられることになり、憲法が権力の暴走を縛る「立憲主義」に反している。
 安倍首相は「一国のみでは自らの平和と安全を守ることはかなわない」と主張し、今国会の施政方針演説で初めて集団的自衛権行使への意欲を口にした。実行には国民の理解が必要との考えも示している。
 だが国会論戦が始まってみると、首相は現行憲法の制約を強調し解釈変更の必要性を強調するのが常で、与野党が行使の判断基準などについてただしても「有識者懇で議論中」として深入りを避けている。これでは議論がかみ合うはずがない。
 国会論戦が事実上封じられたまま、行使容認が既成事実化してしまう事態は避けねばならない。
 安倍首相は「積極的平和主義」の下に、武器輸出三原則の見直しや自衛隊の武器使用基準の緩和などにも前のめりだ。
 憲法解釈の変更はこれらにも道を開く。自衛隊員が危険にさらされ、他国民を傷つける可能性も高まる。同時に、日本国民が相手国の攻撃対象になる恐れもある。
 憲法解釈について「私が責任を負っている」と強引に変更しようとする首相の姿勢は、おごりと言うしかない。国民に判断材料を示し、国会での議論に積極的に応じるべきだ。