神戸新聞 2015年4月29日
日米防衛指針/不安が募る際限なき軍事協力
日米両政府が、防衛協力指針(ガイドライン)を見直すことで合意した。改定は2度目、18年ぶりだが、自衛隊と米軍の協力を「地球規模」に拡大する点で、これまでとは全く異質の内容だ。
戦後70年、歴代政権が軍事行動の歯止めとしてきた憲法9条の制約を解釈変更によって取り払う。自衛隊はほぼ際限なく、米国との共同行動が可能になる。「専守防衛」は言葉だけとなりかねない。
何より問題は、国の姿勢の大転換を国民に詳しく説明するより先に、安倍晋三首相らが米国に約束したことだ。日米同盟の方を重く見る。そう思わざるを得ない行動である。
自衛隊は今よりはるかに危険な任務に就くことになる。戦闘行為に巻き込まれる可能性は格段に増す。死傷者が出る恐れもあるだろう。
「平和主義」の国是からの逸脱を重ねる安倍政権の姿勢は、容認するわけにはいかない。
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「日本として行けるところまで行け」。指針改定の対米交渉を進める防衛省の幹部に対して、首相はそう指示したという。
昨年の閣議決定で、集団的自衛権の行使を禁じた従来の憲法解釈を変更した。「違憲」「解釈改憲」と批判されても先に進む。国の最高責任者の姿勢として、あまりにも前のめりではないか。
政府、与党は集団的自衛権の行使に向け、安全保障関連法案の今国会での成立を目指す。日米同盟の強化はその中核をなす。だが、共同通信社の世論調査では約半数がその方針に「反対」と答えている。国民の理解を得たとは言い難い。
にもかかわらず、自民、公明両党は関連法案の内容で合意し、首相らは米国に指針改定の方針を伝えた。国会も置き去りの形である。
自民党の「1強」状態で、野党は存在感に乏しい。とはいえ、安保政策の転換はまだ国会の承認を受けておらず、民意に沿うとは言えない。政府の対米交渉先行を、野党は後半国会で厳しく追及すべきだ。
【自ら歯止めなくし】
もともと指針をめぐる日米交渉は譲歩と抵抗のせめぎ合いだった。1978年に初めて策定された以前から、米国は自衛隊による米軍支援などを求め続けてきたという。
歴代政権は、集団的自衛権を禁じる憲法解釈を盾にその要求をかわした。97年の改定では抗しきれず、朝鮮半島有事を日本の平和と安定に影響を与える「周辺事態」と位置付け、米軍の後方支援を盛り込んだ。それでも、憲法が禁じる武力行使の一体化だけは避けるというぎりぎりの対応を取った。
当時の小渕恵三首相は「中東やインド洋は現実問題として想定されない」と国会で答弁した。それが、自衛隊の海外派遣に歯止めをかける事実上の地理的制約とされた。
その小渕答弁を、安倍政権は踏襲しない方針だ。既に集団的自衛権の行使容認にも踏み切った。首相の言う「切れ目のない対応」は、歴代政権が守り続けた歯止めを自らなくす対応ともいえるだろう。
【高まる戦闘の危険】
沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国との対立が続く。中国の軍事力増強と海洋進出により、南シナ海などでは周辺国との緊張も高まっている。
国防予算の削減に迫られる米国は自衛隊に安全保障の肩代わりを期待する。政府にとって日米同盟の強化は中国への最大のけん制となる。
ただ、自国が攻撃されていないのに米軍などに軍事協力すれば、反撃される恐れがある。強制的な船舶検査や停戦前の機雷掃海作業、他国軍への弾薬の提供も同様で、相手には武力行使と映る。矢面に立つのは派遣された自衛官だ。
他国に向けて一発の銃弾も撃ったことのない自衛隊は、一人の戦死者も出していない。自衛隊が米軍の歯車のように行動を展開すれば、戦闘に巻き込まれる危険は増す。
政府、与党は国民の声に耳を傾け、安保の在り方を考えるべきだ。
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