高知新聞 2015年4月29日

【日米防衛指針 安倍政治を問う】「専守」を踏み越える

 日米両政府が、自衛隊と米軍の役割分担を定めた新たな防衛協力指針(ガイドライン)を決定した。
 これで自衛隊と米軍の一体化が一気に進み、自衛隊による対米支援は地球規模に拡大する。憲法に基づく専守防衛や日米安全保障条約が掲げる「極東の平和と安全」の枠を大きく踏み越える内容といってよい。
 拡大する自衛隊活動の裏付けとなる安全保障法制は与党が実質合意したとはいえ、国会審議はまだ始まっていない。国民への説明や国会の論議より米国との約束を先行させる政府の姿勢は許されない。
 指針は冷戦時代の1978年に旧ソ連の日本侵攻を想定して策定され、97年に朝鮮半島有事を重視した内容に改定された。比重は日本有事から周辺有事に移り、日米共同行動の対象範囲も広がったが、今回の改定はその比ではない。
 新指針は「切れ目のない」共同対応の名の下、@平時A日本の平和と安全に重要な影響を与える事態(重要影響事態)B日本の存立を脅かす明白な危険がある事態(存立危機事態)C武力攻撃事態―の4事態を想定する。
 従来の周辺事態を重要影響事態に改めたことによって、自衛隊の活動範囲は地球規模に広がる。新たに加えた存立危機事態では、政府が「明白な危険がある」と判断すれば、集団的自衛権を行使して米軍と共同作戦を実施することになる。

 時と場所問わず

 具体的な活動内容をみれば、日米の軍事一体化がよく分かる。
 存立危機事態での共同作戦として例示されているのは機雷掃海、艦船の防護、船舶の強制的な検査(臨検)、弾道ミサイルの迎撃などだ。  このうち機雷掃海については、安保法制をめぐる与党協議で公明党が中東・ホルムズ海峡での実施に難色を示している。新指針にはそうした「例外」は見当たらない。
 重要影響事態での米軍への後方支援には、弾薬の提供や発進準備中の戦闘機への給油なども含まれる。後方支援とはいいながら、軍事的な意味合いは武力行使と変わらないだろう。
 このほか、平和維持活動など国際的な活動での協力、宇宙やサイバー空間に関する協力を新たに盛り込んだ。さらに、従来は有事に設置するとしていた日米の調整機関を常設化する。
 平時から緊急事態まで、時と場所を問わず自衛隊と米軍が一体化するのは間違いない。

 国会審議が先

 指針改定を働き掛けた日本側には、沖縄県・尖閣諸島周辺などで海洋進出を強める中国への抑止力を向上させる狙いがある。一方、財政難から同盟国に負担の肩代わりを求める米国側にとっては渡りに船だっただろう。
 新指針には確かに「島しょ」防衛が盛り込まれた。だが、中国との経済的な結び付きを深める米国は、尖閣の領有権をめぐって「中立」の姿勢を取るなど、緊張の高まりは決して望んでいない。
 国力を増大させる中国とどう向き合っていくのか。軍事面での対抗に偏れば緊張は激化するだけであり、日本は経済や外交を含めた関係の在り方を主体的に考えなければならない。
 自衛隊の役割拡大がもたらす影響も考える必要がある。現在、5兆円近くの防衛費はいや応なく増えていくだろう。海外で米軍とともに活動する自衛隊員はもちろんのこと、民間の邦人も「敵」として危険にさらされる可能性は小さくない。
 そうした問題も含め、本来なら安全保障法制をめぐる国会審議が先にあるべきだ。指針に「法的権利や義務を生じさせるものではない」と明記されているといっても、順序が逆なのは明らかだろう。
 憲法と日米安保条約は一字一句変わらないのに、「国のかたち」は大きく変わってしまう。国民の理解を置き去りにしたまま、安倍政権が突っ走ることは到底容認できない。国会での徹底的な論議を強く求める。