京都新聞 社説 2014年02月06日
集団的自衛権 解釈変更は許されない
集団的自衛権の行使容認をめぐり、安倍晋三首相が国会で「新しい憲法解釈で可能。必ずしも憲法改正は必要でない」と公言した。
首相主導の有識者会議でも行使容認を後押しする報告書づくりが進む。報告書の提出を受け、政府は今国会での解釈変更を視野に入れているという。
あまりにも拙速で、強引な進め方ではないか。先月末の共同通信社の世論調査では、「解釈変更による行使に反対」と答えた人が約53%と、賛成の37%を大きく上回った。首相の独断で憲法の解釈を変更することは許されない。
有識者会議の提言を間近に控えて、首相は封印してきた行使容認への意欲を示している。会議は第1次安倍政権時、公海での米艦防護や米国に向かう弾道ミサイルの迎撃について集団的自衛権の行使を認める報告書をまとめた。今回もこれらを引き継ぎ、さらに対象を拡大する議論を重ねているとみられる。
集団的自衛権をめぐっては、内閣法制局の見解に基づき、歴代政権が一貫して、憲法9条のもとで認められる武力行使の範囲を超えるため「国際法上保有はするが行使はできない」としてきた。
この解釈のどこが間違っていたのかも示さず、時の政権の意向で最高法規である憲法の解釈を変えられるなら法治国家といえない。
首相に信念があるならなおさら、十分に議論して論点を詰めた上で、立憲主義に基づいて改憲への手続きを踏み、国民投票による判断を仰ぐのが筋だろう。
連立を組む公明党には慎重論が根強い。拙速な議論に自民党内の一部からも懸念が出ているという。だが、改憲勢力である日本維新の会やみんなの党が首相の秋波に応えれば、一気に行使を裏付ける法律や自衛隊法など関連法の改正に乗り出しかねない。
政権が解釈変更を急ぐのは、年末までに改訂する日米防衛協力指針に反映させたいためだ。有識者会議の報告書は、領土・領海侵入に対する自衛隊の対処事例の拡大についても言及するという。
中国の海洋進出や北朝鮮の核開発など日本を取り巻く環境に緊張が高まっているのは事実だ。
しかし、集団的自衛権の行使容認に踏み出すことは、専守防衛からの逸脱になり、海外への武力行使に道を開きかねない。行使容認に傾く日本の姿が、国際社会にどう映るのかも考えるべきだろう。
憲法解釈の変更は日本が歩んできた平和主義の変質につながり、憲法の信頼性を損なう。国民の手の届かぬところで、なし崩しに議論を進めてはならない。
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