毎日新聞 社説 2014年02月12日

集団的自衛権の行使 今は踏み出す時でない

 集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈変更をめぐる議論が、国会で始まった。安倍政権は集団的自衛権を行使できるとした上で、政権の政策判断や関係する法律、国会承認によって歯止めをかけ、限定的に行使する方針を今国会中にも閣議決定するとみられている。
 しかし、安倍政権の外交姿勢や歴史認識を見ていると、いったん集団的自衛権の行使を認めてしまえば、対外的な緊張を増幅し、海外での自衛隊の活動が際限なく拡大され、憲法9条の平和主義の理念を逸脱してしまうのではないか、との危惧を持たざるを得ない。行使容認が日本の総合的な国益にどんな結果をもたらすか、慎重に考える必要がある。

 ◇政権の外交姿勢に懸念
 私たちは、冷戦期とも冷戦後とも異なる複雑な時代を生きている。2010年代に入って中国の経済的・軍事的な台頭が顕著になり、米国から中国へのパワーシフト(力の変動)が進行している。日本や国際社会を取り巻く脅威の内容も大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、テロ、サイバー攻撃など多様化している。
 こうした安全保障環境の変化を踏まえ、安倍政権は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」を基本理念に掲げた。積極的に国際社会の平和と安定に寄与することにより、日本の平和と国益を守るという。集団的自衛権の行使容認もそのために必要なことだと位置づけられている。
 安保環境変化への安倍政権の問題意識は、私たちも理解する。日本が集団的自衛権を行使することで、朝鮮半島有事への効果的対応が可能になる側面はあるだろう。安倍政権には中国の軍備拡張や海洋進出に対する日米同盟の抑止力を強化する狙いもあるようだ。
 だが、さまざまな観点から私たちは、集団的自衛権の行使容認に今踏み出すべきではないと考える。
 安倍晋三首相の私的懇談会の議論では、行使が想定される具体例として、公海上で自衛隊艦船の近くで行動する米軍艦船の防護、米国向け弾道ミサイルの迎撃、シーレーン(海上交通路)の機雷除去、周辺有事の際の強制的な船舶検査(臨検)などがあがっている。「今の憲法解釈のままでは、こうしたこともできない」事例として集められたものだ。
 だが現実には、これらの活動だけを限定して行うのは難しい。戦闘地域で機雷除去や臨検を行えば、国際法上は武力行使と見なされる。他国軍から反撃され、双方に戦死者が出ることも覚悟しなければならない。