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毎日新聞社説 2015年09月13日

安保転換を問う 集団的自衛権

 ◇政府の説明は破綻した

 安倍政権が、安全保障関連法案を今週中に成立させようとしている。
 多くの専門家が憲法違反と指摘し、国民の過半数が反対しているのに、なぜ成立を急ごうとするのか。
 安倍晋三首相は「国民の命と暮らしを守るため」というが、これまで衆参両院で約200時間、審議しても、集団的自衛権を行使しなければ国を守れないという説得力ある説明は、政府から聞かれなかった。
 審議が参院に移ってから、政府は北朝鮮の脅威に加え、中国の軍事的台頭への懸念を強調するようになった。国民の間に広がる漠然とした不安に訴えかけ、法案の必要性に理解を得ようという狙いだろう。

 ◇ホルムズも邦人輸送も

 確かに中国や北朝鮮の動向は心配だ。日本はこのまま手をこまねいていていいのか、という問いかけに共感する人もいるだろう。
 だが、こういうときだからこそ日本はいま何ができて、何ができないか。足りない点を補うために、どんな法制を整備すべきか、冷静に検討する必要がある。
 差し迫った課題である沖縄県・尖閣諸島を考えてみる。尖閣は日本の領土だ。この防衛は、日本を守るための個別的自衛権で対処する。米国も日米安保条約5条にもとづき共同で防衛にあたると期待されている。
 つまり個別的自衛権と日米安保で対処するわけで、他国が攻められたときに日本がそれを守るために反撃する集団的自衛権とは関係がない。
 政府が、集団的自衛権行使の代表例としたのは「中東・ホルムズ海峡での機雷掃海」と「邦人輸送中の米艦防護」だ。
 ホルムズ海峡の機雷掃海は、経済的な理由で集団的自衛権を行使することに批判が高まり、政府は最近では積極的に言及しなくなった。
 邦人輸送中の米艦防護は、地域は限定していないが、主に朝鮮半島有事(戦争)を想定している。首相がパネルを使って集団的自衛権行使の必要性を訴えたこだわりの事例だ。
 だが、中谷元防衛相は「邦人が乗っているかいないかは、(条件の)絶対的なものではない」と語った。
 朝鮮半島有事の米艦防護では、このほか、ミサイル防衛にあたる米イージス艦を守るケースも議論された。有事に米艦が艦隊を編成せずに単独で行動し、自衛隊に守ってもらう事態は現実には考えにくい。この点でも政府の答弁は揺れ動いた。
 40年以上維持されてきた憲法9条の解釈を強引に変更してまで、なぜ集団的自衛権を行使する必要があるのか。政府は、それに当てはまる事例をついに示せなかった。説明は破綻したと断じざるを得ない。
 政府が法案に込めた狙いは、米軍の戦いを自衛隊が世界規模で支援し、集団的自衛権の行使が可能な国になることで、日米同盟をより双務的にすることだろう。それによって米国をアジア太平洋に引きつけ、強化された日米同盟で中国の軍拡に対応することを目指している。
 安全保障環境の変化に対応するため、必要な法案の議論を一つずつ積み上げたというよりも、集団的自衛権の行使容認ありきだった。

 ◇あまりに大きいリスク

 だから、必ずしも現実の安保環境の変化と法案の内容が結びつかず、ちぐはぐになり、政府の説明がころころ変わったように見える。
 私たちは、安保環境の変化に対応するため、法制の見直しは必要だと考えている。例えば、現行の周辺事態法は、朝鮮半島有事を想定して米軍への後方支援を定めた法律だが、地理的な制約を維持し、弾薬の提供をしないなどの縛りをかけたまま、与野党で話し合って支援内容の拡充を検討することがあっていい。
 だが、集団的自衛権の行使が必要と政府が言うものは、基本的に個別的自衛権で対応できると考える。
 集団的自衛権の行使を認めた今回の法案は、「存立危機事態」など行使の新3要件があいまいで、政府が総合的に判断するという仕組みだ。
 どういう基準で武力行使に踏み切るのかという、自衛隊の運用で最も重要な問題が、国民の目に見えない。政府の裁量次第で拡大解釈が可能であり、海外での武力行使が際限なく広がる恐れがある。
 政府案が実行に移されれば、むしろ安全保障上のリスクとなる。さらには、政治上のリスクも招く可能性がある。
 集団的自衛権の行使を認めた憲法解釈変更は、過去の解釈と論理的な整合性がとれていない。法案は憲法違反だと指摘されても、政府は最後まで納得いく答えを示せなかった。
 法案を成立させれば、憲法を頂点とする法体系の安定性は失われるだろう。憲法も政府も国民から信頼されなくなる懸念がある。政治そのものが不安定になりかねない。
 政府は、法整備により日米同盟が強化され抑止力が高まると言う。そういうメリットがあるとしても、リスクのほうがはるかに大きい。そんな法案を成立させてはならない。