新潟日報 2015年3月23日

安保与党協議 「歯止め」になっていない

 新たな安全保障法制についての自民党と公明党の与党協議会が、法制の骨格を決めた。
 昨年7月の集団的自衛権行使容認の閣議決定を受けて自衛隊の活動範囲を拡大するための法整備の方針となるものだ。
 (1)武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」対処(2)日本の平和に資する活動をする他国軍支援のための周辺事態法改正(3)国際紛争に対処する他国軍を後方支援するための恒久法(4)国連平和維持活動(PKO)協力法改正(5)集団的自衛権行使−の5分野などで、「具体的な方向性」を示した。
 公明党は活動拡大に一定の歯止めを掛ける方向で話し合いに臨んできた。骨格は公明党の主張を受け入れた面はある。
 国際紛争に対処する他国軍への後方支援では、自衛隊派遣の要件について自民党主導の原案を厳格化し、「国連決議に基づく。または関連する国連決議がある」などとしている。
 だが、PKO活動の人道復興支援の場合には、国連決議によらなくても派遣可能と解釈できる余地を残した。
 集団的自衛権行使のための「武力行使の新3要件」の取り扱いでもすれ違いがあった。
 公明党は行使の範囲を限定するため、新3要件にある「国民を守るために他に手段がない」の要件を法案に明示するよう求めたが、骨格の中ではこれをどう扱うか触れなかった。
 公明党が当初から要求していた「国際法上の正当性」や「隊員の安全確保」の文言は骨格に盛り込まれた。だが、歯止めはそれで十分とはいえないはずだ。
 集団的自衛権の行使を認める状況を定義する「存立危機事態」は検討が先送りされた。
 朝鮮半島での有事を想定した周辺事態法から地理的制約を事実上なくすことが検討される中で、周辺事態に代わる概念として政府が提案している「重要影響事態」も不明確なままだ。
 政府、与党にとってのこうした重要課題を積み残したのは、これからの政治日程を重視したからにほかならない。
 4月下旬からの安倍晋三首相の訪米、それに合わせた日米防衛指針(ガイドライン)再改定もにらみながら、法案化作業を急がねばならない事情がある。
 4月中旬に法案を基に与党協議を再開し、細部を詰めるのが与党が描く段取りだ。
 与党協議が長引いて統一地方選に影響するのを、公明党側が心配した背景もある。
 与党協議は終始、政府、自民党ペースで進んだ。公明党が恒久法制定、自衛隊の海外活動路線を容認してからは、落としどころを探る動きにも見えた。
 政治日程絡みのご都合主義も垣間見える現状を見れば、今後も海外派遣拡大ありきのやりとりにとどまるのではないか。
 国民の十分な了解を得ない強引な「解釈改憲」から始まったことだ。閣議決定の是非に立ち返った論議が求められる。それは野党、国会の責務である。