西日本新聞 2015年3月21日
安保法制合意 国民置き去りに進めるな
自民、公明両党はきのう、新たな安全保障法制に関する与党協議会を開き、集団的自衛権行使や他国軍への後方支援などの分野で、自衛隊の活動を拡大する法制の骨格について正式合意した。
昨年7月、安倍晋三政権は従来の憲法解釈を変 更し、集団的自衛権の行使を認める閣議決定を行った。今回の与党合意によって、この閣議決定を具体化する法案作成作業が本格的に始まる。
集団的自衛権とは「自国と密接な関係にある国が攻撃を受けた場合、自国が攻撃を受けていないにもかかわらず、武力で反撃する権利」である。言い換えれば「他国の戦争に参加する権利」だ。
戦後の歴代内閣は「日本は憲法で集団的自衛権の行使を禁じられている」との解釈を踏襲してきた。しかし、安倍政権は一内閣の判断で、事実上の改憲とも言える解釈変更に踏み切った。閣議決定そのものに疑義があると、あらためて指摘しておきたい。
それから9カ月足らずで、政権は具体的な法案づくりに乗り出すという。閣議決定ならまだ内閣の方針表明だが、法律ができれば、自衛隊が「他国の戦争に参加する」事態が現実となりうる。
日本の安全保障政策は、安倍政権のかじ取りによって、大きくカーブを切りつつある。私たちは今、その大転換のただ中にいる。
▼拡大に歯止めなく
与党合意による法制の骨格は「切れ目のない法制整備」を掲げ、自衛隊の活動を拡大させる。
「グレーゾーン事態への対処」「他国軍後方支援のための周辺事態法改正」「自衛隊海外派遣を随時可能とする恒久法新設」「国連平和維持活動(PKO)協力法改正」「集団的自衛権の行使」の5分野が、その柱である。
こうした多岐にわたる法制整備の性格を総括すれば、「歯止めなき拡大」と言えそうだ。
周辺事態法から「周辺」の地理的制約をなくし、自衛隊が地球の反対側にも後方支援に出掛ける。国際協力では、自衛隊が武器を使用して現地の治安維持に参加する。政府が必要な事態だと判断すれば、日本から遠く離れた場所でも自衛隊が武力行使できる−。
法制化が実現すれば、自衛隊の海外での活動は、これまでとは比較できないほど広がり、同時に任務に伴う危険も増す。米軍の活動との一体化も進むだろう。
その一方で、拡大する活動にかける「歯止め」をどうつくるかは、曖昧なまま先送りされた。
与党合意は「歯止め」として、国際法上の正当性、国会の関与などの民主的統制、自衛隊員の安全確保の3原則を示したが、どこまで実効性があるかは不透明だ。
恒久法に基づく自衛隊の派遣要件も「国会の事前承認を基本とする」という表現で、例外的に事後承認する余地が残ったとも読み取れる。できるだけ歯止めをかけず、自衛隊をフリーハンドで動かしたい政権の思惑が強くにじむ。
▼政治日程が優先か
与党が今回合意した法整備の骨格は、とにかく分かりにくい。
安保法制にはもともと難しい用語が多いが、今回はさらに「重要影響事態」や「新事態(存立危機事態)」など新たな概念も登場した。それが従来の諸事態とどこが違い、どこが重なり合うのか、短時間で理解するのは困難だ。
この分かりにくさの原因は、目的も手段も違う自衛隊のさまざまな活動を一緒くたにして俎上(そじょう)に載せ、一気呵成(かせい)に法制化しようとする政権の姿勢にある。
政府と自民党が与党合意を急いだ背景には、4月の安倍首相の訪米に合わせ、日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定するため、その前に国内法整備の道筋を付けておきたかったからだ。
また公明党には、支持層に不人気な安保論議を早く済ませ、来週から始まる統一地方選への影響を避けたいとの思惑があったとみられる。いずれも政治日程ありきの判断と言わざるを得ない。
報道各社の世論調査を見ても、安保法制改定への支持は広がっていないのが現状である。
国民の十分な理解も支持もないまま、自衛隊の活動拡大へ突き進む安倍政権の姿勢は危うい。これほど重大な政策転換なのに、国民を置き去りに進めてはならない。拙速を避け、国民が納得できるよう国会で徹底的に議論すべきだ。
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