琉球新報 2015年3月17日

安保法制見直し 軍事偏重が平和国家崩す

 世界の紛争地で武力を行使する他国軍を日本が支援することが現実のものとなり、海外での自衛隊の武力行使にも道を開く恒久法が定められようとしている。
 自民、公明両党による与党協議で、新たな安全保障法制の骨格原案が判明し、「具体的な方向性」が示された。公明党は朝鮮半島有事の米軍支援を想定した周辺事態法を改正し、米軍以外の他国軍を支援することを容認した。自民党のほぼ思惑通りの見直しである。
 恣意(しい)的な紛争事態の認定に地理的制約を掛けた「周辺事態」は実質的に廃止される。集団的自衛権の行使を憲法解釈で容認する政府が認定すれば、地球の裏側でも米軍を主軸とする他国軍の後方支援が可能となる。
 端的にいえば、恒久法制定によって自衛隊の海外派遣がなし崩しに拡大する懸念が拭えない。米軍の要求に沿って、日本が歩んできた平和国家の道を大きく踏み外す危険極まりない安保法制に姿を変えることを意味する。
 自公両党は5月半ばに関連法案を国会に提出するとしているが、軍事偏重が際立つ安保法制の見直しは許されない。
 世界の安全保障環境は変化するものの、それに対処する上で欠けてはならない視点がある。
 軍事的な手段には限界があることを自覚することであり、自国の軍事的行動を相手方や周辺国がどう受け止めるかを見極めることだ。
 遠藤誠治成蹊大教授はこの重要な視点が安倍政権には欠落していると指摘している。その例に中国との関係を挙げる。  オバマ米政権が「中国と戦争しない仕組みづくり」に腐心しているのに対し、同盟国の日本は「戦争になったらどうするか」を優先的に検討しているとの指摘である。
 「抑止力」強化をうたう行動が脅威となり、相手国を軍備増強に走らせ、緊張が増す悪循環に陥る。今の日中の関係が当てはまる。
 自衛隊の海外派遣拡大に直結する恒久法制定が国際社会にどんなメッセージを放つのか。安保法制を何のために見直すのか、議論は深まらない。
 国際法上の正当性や国民の理解、自衛隊員の安全確保など、公明党が主張した海外派遣の歯止め策を三つ講じたが、集団的自衛権の行使を認め、周辺事態や非戦闘地域の制限的概念を撤廃する以上、歯止めの実効性は極めて不十分だ。