徳島新聞 2015年4月29日

新日米防衛指針 対米公約先行は許されぬ

 これで自衛隊の対米支援は際限なく広がるだろう。
 安全保障政策の大転換であるにもかかわらず、政府は対米公約を先行させ国会審議や国民への説明を行っていない。国会や国民を軽視する姿勢は認められない。
 自衛隊と米軍の協力を地球規模に広げ、平時から有事まで「切れ目のない」連携を打ち出した新たな日米防衛協力指針(ガイドライン)が決まった。
 昨年7月、安倍政権が閣議決定した集団的自衛権の行使容認を反映させたほか、新たな安全保障法制の核心部分を先取りしているのがポイントである。
 沖縄県・尖閣諸島周辺での領海侵入を繰り返す中国を念頭に、離島防衛への共同対処も盛り込んだ。
 集団的自衛権をめぐり、具体例として機雷掃海や艦船防護、敵国を支援する船舶を強制的に検査する臨検を挙げ、弾道ミサイルの迎撃でも協力を確約している。
 自衛隊にこれらの活動を認めることは、戦後、日本が堅持してきた「平和主義」と「専守防衛」の理念をないがしろにするものだ。
 これまでの指針では、自衛隊の活動範囲は事実上、日本周辺に限られていたが、地理的制約をなくした上に、協力内容も制限していない。
 新指針の下で、自衛隊と米軍の一体的な運用が飛躍的に拡大されれば、自衛隊が米国の戦闘に巻き込まれたり、日本がテロの標的にされたりする危険性は格段に高まる。
 集団的自衛権を行使可能とする安保法制と新指針は「表裏一体」の関係にある。
 しかし、関連法案の国会審議は来月中旬以降になる見通しだ。3月末に実施された共同通信社の世論調査では、ほぼ半数の49・8%が今国会での関連法案成立に反対と答えている。
 国民への理解を得ていない上に国内の法整備を飛び越し、対米公約を先行させる形で既成事実化させるのは順序が逆である。
 国会は、こうした政府の姿勢を厳しく追及しなければならない。
 指針改定は18年ぶりとなる。軍拡にひた走る中国の脅威に対抗するために、米国を引き付けたいと、日本側から打診した。
 日本を取り巻く情勢は大きく変化しており、政府は武力を背景にした中国の圧力外交に懸念を強めている。
 財政が厳しい米国には、米軍再編の一環として、任務を自衛隊に肩代わりさせたい狙いがある。その一方で、経済を中心に相互依存関係を深める中国を過剰に刺激したくない本音も透けて見える。
 日本の思惑通りに、米国が中国と本気で対(たい)峙(じ)するかどうかは不透明だ。
 力による対抗は相手を刺激し、緊張をより高めるリスクを伴う。
 抑止力強化一辺倒の安倍政権の姿勢には、強い危惧を禁じ得ない。