戦後75年 まだ間に合う証言を未来へ 15日に「戦争と平和資料展」日高町
 (朝日新聞・和歌山 2020.08.14)




 戦後75年 まだ間に合う証言を未来へ
和歌山)15日に「戦争と平和資料展」日高町 (8月14日・朝日新聞)

 「語り継ぐ戦争と平和資料展」が15日、和歌山県日高町有家の町立中央公民館で開かれる。町内の戦争体験者や家族が残していた遺品を公開し、戦争という「負の遺産」を次の世代に語りかける。

 主催は「日高町平和を願う9条の会」。会は、祖父母や親らから戦争体験を聞いた世代には戦争という負の通産を後世に伝え残す責務があるとして、町内の各家庭に眠っている遺品、手紙、写真などを展示する「平和資料館」の設立を目指している。町内に展示品の提供を呼びかけ、五十数点が集まった。そのうちの一部を紹介する。

 展示品のひとつに、町内の元特攻隊員の花道柳太郎さんが保管していた「と號空中勤務必携」の復刻版がある。もとは1945年5月に作られた特攻隊員むけの教本。「吾(わ)レハ天皇陛下ノ股肱(ここう)ナリ」から始まる。「先ヅ肚(はら)ヲ決メヨ」「現世二残ス未練ナクアツサリ飛ビ立ツ」と出発前の心構えを説き、「各種攻撃法」「突撃方式」の説明が続く。そうして「衝突直前」として「人生二十五年、最後ノ力ダ神カヲ出セ」「眼ハ開ケタママダ」「何レニシテモ皆楽シイ思出ダケダツタ」などと個人の最後の心象風景にさえも国家が踏みこんでいく冷酷な記述が続く。

 このほか、36年2月の「2・26事件」の直後、中身を検閲したことを示す「戒厳令二依(よ)り開緘(かいかん)」の印が押された封書∇「我国の軍隊は世々天皇の統率し給ふ所にこそある」「死は鴻毛(こうもう)よりも軽しと覚悟せよ」とある在郷軍人手帳∇陸軍衛生伍長におくられた勲章∇国家総動員法にもとづく金属回収に協力したことへの「国防資材献納」感謝状∇千人針∇特攻隊員への寄せ書き――などを解説つきで並べる。

 戦後すぐに文部省が中学1年生の教科書として発行した「あたらしい憲法のはなし」の現物も展示する。「戦争は人間をほろぼすことです」「いくさをしかけることは、けっきょく、じぶんの国をほろぼすようなはめになるからです」。平明な言葉で憲法の精神を説いた同書は、ほどなくして学校現場で使われなくなった。

 会の事務局長・埋橋忠彦さん(76)は「先人の苦労の上に、戦争を二度と起こさず世界の平和に責献すると決意したのが憲法であり9条。その憲法を変えようとしたり憲法を逸脱する敵基地攻撃能力を保有しようとしたりする動きがある今こそ、当時の若者が残してくれた遺産を大事に引き継いでいきたい」と語る。

 午前10時から午後4時まで。入場無料。埋橋さん(0738・64・2766)。
 (下地毅)